はじめに

春の半のご挨拶

夫れ齢知命を数ふるに至り、来し方の足跡を省みるに、その餘に浅き事雨後の水溜の如く薄き事楮の洟紙の如くなる様に、など徒に半世紀を生きしかとおぼへず膝附き落涙禁ずるを得ず。されどその若干の月日を経るあひだ、耳目もて相応に見聞きせし種々のものに…